膝枕

膝枕


「んん~~ニエ先輩の膝枕最高です~~」

大好きな先輩の膝枕を久しぶりに堪能する私の今の気分は最高です。

ニエ先輩の暖かい膝に頭を預ける事ができるなんて…

一緒に暮らしているホシノ先輩はいつでもこれを堪能できると思うと羨ましすぎます!


でも最近までは私がホシノ先輩に膝枕をする機会が多かったんです。

それはついこの前までニエ先輩は"バイト"でアビドスを空ける事が多かったから…


私も、ホシノ先輩も、他の皆もニエ先輩が無理していないか心配でした。

私達の悪い予感は的中しました。そしてとっても後悔しました──


「みなさん見てください、私頑張ってこんなに稼いできました!これで今月の利子はなんとかなると思います。これで少し余裕ができたと思うので皆さんで焼き肉とか水族館とか行ってきてください!それから......」


ある日、ニエ先輩は大金を学校に持ってきました。私達はとても驚きました。

金額にではありません、勿論それにも驚きましたが…

何よりもその時のニエ先輩の頭は血の滲む包帯で覆われていました。


部屋の空気が凍りついたのを今でも鮮明に覚えています。


「この包帯ですか?ちょっと仕事でケガしちゃっただけですよ。気にしなくても大丈夫です。そんなことよりもほら、見てくださいよこのお金の量!私が今まで足引っ張てきちゃった分取り返そうと必死で、頑張って.......!」


立ち上がろうとしたシロコちゃんをホシノ先輩が止めました。


「........落ち着いて、シロコちゃん」


そのときの皆の顔も鮮明に覚えています。

今にもニエ先輩をなんとかしたいシロコちゃんの何かを睨むような引き攣った表情。

冷静に対応しようとしているホシノ先輩。

今にも泣きそうなセリカちゃん。

驚きと困惑でいっぱいのアヤネちゃん。


──あのとき私はどんな表情をしていたのでしょう。

ただとても後悔していました。もっとニエ先輩の事を心配していれば、ニエ先輩の近くにいることができたら。私のカードで──


でもこれはほんの序の口でした。今思えばこのとき全ては既に手遅れだったんです。


ある日の夜、ニエ先輩はアビドスを出ていこうとしました。

ホシノ先輩とシロコちゃんはそろそろこうなることが分かっていたそうで、駅前でニエ先輩を止めることが出来ました。


本当は私も呼んでほしかったな──


ううん、こういうのは二人の役目です。きっとあの時のニエ先輩に大人数で駆けつけてもニエ先輩を傷つけるだけだった筈。

その後にニエ先輩が勇気を振り絞って打ち明けてくれた出来事は衝撃的なものでした。


私達が学校にいる間、ニエ先輩はとてもとても悲惨な思いをしていました。

ニエ先輩は頭の包帯を外しました。変わり果てた頭部を見た私は目に涙が溢れました。


でもニエ先輩はアビドスを去ることは思いとどまってくれました。

これだけは、これだけは本当に良かった。

ニエ先輩が出ていくなんて、きっと私には耐えられない──


数日後に、無性にニエ先輩の膝枕が恋しくなった私は先輩に膝枕のおねだりをしました。

優しいニエ先輩は快く私の頭にその膝を貸してくれました。


頭部を先輩のぬくもりで満たされながら私は目を閉じます。

先輩に色んな相談に乗ってくれた事を思い出します。初めて出会った暴れるシロコちゃんをニエ先輩が優しく抱きしめた事も思い出します。


でも──どうして、

どうしてあのとき「足引っ張てきちゃった」なんて言ったんですか。

どうして「みんなに見捨てられる」なんて悲しいこと言うんですか。

そんなわけないじゃないですか、そんなこと私達が思うわけ無いじゃないですか。


私達は運命共同体である筈なのに、ニエ先輩だけがこんなに苦しい思いをした。

そんな理不尽が許せません。ニエ先輩にこんな目に合わせた大人はもっと許せません。


そんな濁った思いを抱えながら先輩の膝で私は眠りにつきました。


気がつくと結構な時間が経っていました。

いけませんね、ニエ先輩の膝に負担をかけてしまいました。

ですが先輩もどうやら眠ってしまっているようです。


…あれ、腕に何かが巻き付いて──


それはニエ先輩の尻尾でした。私の腕にしがみつくようにあたたかい尻尾が巻き付いていました。


「う…ううぅ…ああぁ…っ」


私の目からぽろぽろと涙がこぼれます。

悲しくて、悔しくて、辛くて。


どうして先輩がこんな目に遭わないといけないんですか、先輩が何をしたと言うんですか。

これは一体私達への何の罰だと言うんですか。


尻尾が巻きついた腕はそのまま、私はゆっくり起き上がって先輩の片腕にゆっくりと寄りかかりました。

先輩の尻尾が私に巻き付くように、私も先輩の腕に抱きつきたいみたいです。


「んん…ふあぁ…あれ…」


先輩が目を覚ましました。


「ノノミさんもホシノさんに負けず甘えん坊だなあ~えへへ~」


私は先輩の腕に更に強く抱きしめながら、先輩の存在を確かめるように、そして先輩に悟られないように静かに涙を流しました。

Report Page